ケヤキの木
私の家の広くない庭の真ん中に、樹齢はまだ30年くらいですが幹が一抱えもあるケヤキがあります。
植えたときは割り箸みたいにひょろひょろした頼りない木でしたが今は2階の屋根より高くなり、家に覆いかぶさるまで成長しました。
冬は一枚も葉をつけていませんが、4月になると細かい芽が出はじめ、週ごとに葉は大きくなり5月になるとしなやかな若葉で枝がたわむ程になります。庭に面したリビングの壁は萌黄色に染まります。6月ころには立派な緑色の葉になり、一部は虫に食われたりしますが小鳥たちの格好の隠れ家を提供します。宮崎駿さんのアニメに出てくるトトロの人形を葉の間に隠すと近所の子ども達が不思議そうに集まってくるだろうなと思います。夏、夕方に木のてっぺんからホースで水をまくと、葉を伝って雫が落ちてきて、まわりは2、3度涼しくなります。天然のクーラーで、陰イオンたっぷりの爽やかな空気で室内が満たされれます。秋になり台風がくると大きくたわみながらも風の力を弱めて家を守ります。初冬、葉は黄色くなり朝日があたると黄金色に輝き、落ち着いた、美しい最後の姿をみせます。そのうち、今度は大量の落ち葉をまき散らし、家人を悩ませます。掃いても掃いても毎日落ち葉だらけです。散った落ち葉を見ると、虫に食われた跡があるもの、葉脈が切れて穴の空いたものなど、無傷な葉はほとんどありません。強い風が吹くと全部落ちるだろうと思っていても何枚かは残ります。しかし、残った葉も時がくると静かにすっと落ちていきます。一日の仕事を終えて家に帰って来た時には必ずどっしりと大地に根を張っているこの木を見上げます。この木は人生そのもののように感じます。
小児科の医者は芽が出て若葉になる時期の子どもたちと関わっていることになります。オムツをしている赤ちゃん、目の前で泣き叫ぶ子ども、友達に話すように馴れ馴れしい子ども、この子たちが成人するころには、生きていれば、私は80から90歳で直接あるいは間接にお世話になることになります。
人の役にたてる立派な、健康な大人になって欲しい、人の苦しみが分かる、特に老人に優しい青年になって欲しいと願いながら毎日診察をしています。
キリスト教保育連盟 発行の ともに育つ (2011年11月号)