変なもの
《なにか変なもの食べさせなかったですか。》
「そんなものは食べさせていません。」
これは発熱、下痢(たまに血便)で受診された医者と親の会話です。
下痢、嘔吐などのウイルス性胃腸炎はノロウイルス、ロタウイルスなどが原因でこれを防ぐ基本は患者の便、吐物を適切に処理することです。
一方、細菌性胃腸炎は生たまごによるサルモネラ腸炎が多かったのですが、最近はその殆どはカンピロバクターが原因菌となっています。カンピロバクターは牛肉では30~40%、鶏肉ではほぼ100%付着している極めてポピュラーな細菌です。加熱すれば全く問題はないのですが生で食べると発症することがあります。
患者さんの症状、経過、顔の表情などから細菌性胃腸炎を疑った時に最初の会話が始まります。
《下痢が始まる1週間以内、4~5日前に外食はしていませんか。》
「4日前に焼き肉屋さんで食事をしました。」
《生レバーは食べていないでしょうね。》
「この子はレバ刺しが好きで一人前ペロッと食べました。」
これで診断は便の培養結果を待つまでもなくカンピロバクター腸炎と決定です。レバ刺しの他に原因となる食べ物はユッケ、鳥ささ身のたたきなどです。親はこれらの食品を変なものではなく、おいしいから子どもに食べさせたいと思うのでしょう。
《一般に加熱していない肉は要注意です。鹿、熊の刺身は肝炎、スッポンの生き血、ドジョウの踊り食いは寄生虫、とにかくゲテものは避けて、加熱したものを食べることが大事です。》
「分かりました。子どもには食べさせないようにします。」
《子どもだけではありません、カンピロバクター腸炎が一番多いのは二十歳前後の元気な人です。とにかく子どもも大人も変なものは食べないことです。》
「レバ刺しは変のものですか。」
《???》
非加熱肉食品を食べていなくてカンピロバクター腸炎になることもあります。
その時には《まな板と包丁は生もの専用にしていますか。生で食べる漬け物、かまぼこなどを切るまな板と、鳥唐揚げを作る時に鶏肉を切るまな板を共用していると、鶏肉は加熱できてもカンピロバクターは口にはいります。湯でさっと洗ったくらいでは除菌できません。》
堅苦しいことを言う変な医者だと思われるかも知れませんが、お母さんが作った心のこもった衛生的な食事は子どもにとってかけがえのないものだと考えます。
キリスト者保育連盟(東京都新宿区西早稲田2-3-18-75)発行の月刊誌 『ともに育つ』 第478号(2009年1月1日)に寄稿、掲載されました。