感染症よもやま話

2019 02/11 若いお医者さんへ 子育て中のママパパへ

第1回 ボツリヌス中毒 ━映画の話━ 

ボツリヌスの語源はラテン語のbotulus (腸詰め、ソーセージ)に由来し、19世紀にヨーロッパで認識されるようになりました。この毒素の1グラムは100万人の致死量に相当し、青酸カリよりはるかに強力で、地上に存在する毒素としては最強です。

ボツリヌス中毒として有名な二つの話を書きます。一つは『空と海の間に』1956年フランス映画です。あらすじは、ノルウェイの沿岸から2日かかる北氷洋の漁船で乗り組み員11人が次々と倒れる、アマチュア無線で症状を発信、救助を要請。たまたまアフリカでこれを受信した人が知り合いの軍医に相談、軍医はボツリヌス中毒と診断、治療にはパリのパスツール研究所にしかない血清が必要と、再び無線で発信。冷戦の真っ最中であるにも関わらずソ連の飛行機まで協力し、ノルウェイの飛行機が漁船の近くに血清を投下、ハムを食べなかったため発症せず動くことのできる唯一人のアラビア人が厳寒の海に飛び込み、乗組員全員が無事母港に帰り、大歓迎をうける、という話です。イデオロギー、人種に関係なく協力し他人のために献身するヒューマンストーリーです。私が10歳の時の映画ですが、空港でソ連の将校と西側の将校が敬礼し、血清の包みを受け取ったソ連の飛行機が雲の中に消えてゆくシーンを覚えています。私はこのころからボツリヌスに関心があったのかもしれません。私の友人は、全世界の無線仲間が一定時間電波の発信を止め、北氷洋からの微弱な無線に耳をそばだてるシーンを覚えているそうで、興味が違うとその記憶が違うのは面白いことです。

次は日本の辛子レンコンの話を書きます。