感染症よもやま話

2018 02/09 子育て中のママパパへ

金沢大学細菌学教室との臨床研究の説明です。検体収集は一時中断しています(2019年1月)。

臨床研究のお知らせ

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるとき,赤ちゃんには細菌はついていません。しかし、生まれると直ぐに、皮膚にも,腸にも細菌が付着し、付着した部位に特有の常在細菌叢(多種類の細菌の集合体)を形成します。常在細菌叢は多くの場合、善玉菌で占められていてヒトにとって有益な働きをします。皮膚に悪玉菌である黄色ブドウ球菌が増えると膿痂疹(とびひ),腸にサルモネラ菌が入るとサルモネラ腸炎などの細菌感染症を発症します。私たちが赤ちゃんに触れるとき、手をよく洗うのはこれらの悪玉菌による感染症を予防するためです。悪玉菌の一つに神経を麻痺させる毒素を産生するボツリヌス菌があります。この毒素は地球上に存在する毒素の中で最強と言われ、細菌テロに使われる恐れがあるため特別に許可された施設でのみ検査研究することが出来ます。一方、ボツリヌス菌は家のホコリ、土壌などにいる細菌で、市販されている蜂蜜の5%にふくまれている、ありふれた細菌でもあります。大人が蜂蜜を食べてボツリヌス菌が体内に入っても腸内の常在細菌叢が菌の増殖を抑制して発症することはありません。しかし、常在細菌叢が発達していない乳児では腸内で増殖して乳児ボツリヌス症を発症する場合があります。その症状は筋力、哺乳力が弱い、鳴き声に元気がない、呼吸が浅い、たまに突然死するなど、軽症から重症まで症状にバラツキが多いことが特徴です。アメリカ、ドイツでは乳児突然死の10~15%はボツリヌス菌が原因と言われています。日本では死に至らない乳児ボツリヌス症は年間1~2例程度で少ないですが、アメリカでは100例程度報告されていて大きな差がみられます。この隔たりは日本での検査体制が充実していないことが大きな要因と思われます。

普通に養育している元気な乳児の便にボツリヌス菌が存在するのか,しないのか。どのような細菌叢になれば発症しないのか。このような研究調査を行うことによって乳児ボツリヌス症の予防、治療,突然死の解明に道が開けると思います。

本院では金沢大学医学部細菌学教室 藤永由佳子 教授、大阪大学微生物研究所難治感染症対策研究センター細菌感染分野 飯田哲也 教授と共同で乳児の便中ボツリヌス菌、芽胞、毒素などの細菌性病原因子、および細菌叢ゲノム解析を最新の科学知識をもとに研究することになりました。患者さんから便と、それを研究に使用する同意書を頂きます。個人情報は保護されますのでご迷惑をかけることはありません,便の提供に是非ご協力をお願い致します。この検査でもしも患者さんの便中にボツリヌス菌、芽胞、毒素などの細菌性病原因子が検出された場合には、その旨をご連絡させていただき、今後の健康維持のためのアドバイスを致します。また同意書提出の後、ご意思を表示していただくことにより撤回をすることも可能です。撤回や不同意なさった場合に不利益となることは全くございません。